2012年4月23日月曜日

[クライアント中心療法における自己概念(self-concept)と自己一致(self-congruence)]


クライアント中心療法における自己概念(self-concept)と自己一致(self-congruence)

自己概念(self-concept)とは、『自分とはどのような人間であるのか』という自己認識であり、個人はそれぞれ自分に対する全体的な概念やイメージを持っています。自分で自分という存在をどのように認識・定義しているのかというのが自己概念ですが、人間の思考・感情・態度・行動などは自己概念によってその大部分が規定されるという特徴を持ちます。自分の能力や魅力、言動に自信がある人は『肯定的・積極的な自己概念』を持っており、反対に自分の能力や魅力に自信がない人は『否定的・消極的な自己概念』を持っています。


自分の能力・魅力・外見などをどのように認識しているのかという自己概念は、『選択的注意による循環効果(circular effect)』を持っています。つまり、『自分はこのような人間であるという自己概念』を肯定する情報・反応・証拠に注意が向かいやすいということです。『自分は優れた人間である』という自己概念を持つ人は、自分の成功・他人の評価・社会経済的な報酬など『肯定的な証拠』に注意が向かいやすいので、循環効果によってますます自分に自信を持ちやすくなります。反対に『自分は駄目な人間である』という自己概念を持つ人は、自分の能力や業績を否定するような証拠ばかりに注意が向かうので、循環効果によってますます自己嫌悪的な悪い状況にはまり込みやすくなります。人生を楽しく自信を持って生きていくためには、『肯定的・発展的な自己概念』をもつことが必要条件になるわけです。


カウンセリング心理学では『自己概念の適応的変容』をカウンセリングの主要目的の一つに挙げていますが、来談者中心療法(クライアント中心療法)を開発したカール・ロジャーズはカウンセラーが丁寧に傾聴して『受容的・共感的な理解』を示すことで、クライアントの自己概念の適応的変容が進むと考えました。カール・ロジャーズの自己理論では成長・適応・健康へと向かう『実現傾向』を持った肯定的な人間観が提示されていますが、ロジャーズは共感的なカウンセリング体験によって人間が本来的にもっている実現傾向を促進させることができるとしました。人間性心理学に分類されるロジャーズのカウンセリング心理学(自己理論)では、クライアントの実現傾向を促進するような『周辺環境・人間関係』 が重視されており、自己理論はポジティブ(楽観的)な環境決定論に根ざした論理構成を取っています。


カール・ロジャーズが規定したカウンセラーの基本的態度には『自己一致・徹底的傾聴・共感的な理解・無条件の肯定的受容・純粋性』などがありますが、自己概念を現実的な経験と一致させる『自己一致(self-congruence)』はカウンセラーにとってもクライアントにとっても大切な要素になっています。

現在の環境に対して不適応な状態にあるクライアントは、自分の全体像を認識する『自己概念』が硬直化して変化を拒むようなかたちで体制化されています。カウンセリングでは、経験による変化を拒絶する『硬直化した自己概念』を経験による変化を受け容れられる『柔軟な自己概念』へと変質させていくのですが、そのカウンセリング過程において自己概念と有機体的経験(直接的な実際の経験)を一致させる『自己一致(self-congruence)』の現象が起こってきます。


自己一致が起こっていない状態とは、『自分に対する固定観念や絶対的信念』に束縛されている状態であり、『新たな有機体的経験』を自己概念の中に取り入れることが出来なくなっています。つまり、自己概念と有機体的経験(直接的な現実体験)が不一致な状態にあり、幾ら有意義で貴重な体験をしても自己概念(自分に対する自己規定)を良い方向に変化させることができないのです。自己一致が起こっている状態とは、自己概念と有機体的経験(直接的な現実体験)を自然に結び付けていけるような状態であり、『新しい有意義な体験』によって柔軟に自己概念や行動・態度を変化させていくことができるということになります。


カウンセリングの効果とは、『自分はこのような人間だから』という固定的な自己概念を持って新たな経験をこれからの人生に活かせないような『自己不一致の個人』を、柔軟な適応性を持った個人に変化させていくことにあります。カウンセラーの基本的態度としても『自己一致』は重要度の高いものであり、人間は現状の自己概念に固執するのではなく、新たな経験や状況(人間関係)の変化に応じて自己概念を適応的に更新していかなければならないのです。自己一致を進めるということは、環境適応性を向上させるということと同義であり、ロジャーズの言う実現傾向の促進と自己一致の発達とは密接な関係があります。



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